本ニュースコラムでは、ウェルネス、ガストロノミー、サステナブルツーリズムといったテーマを取り上げてきましたが、これらに共通するのは、インバウンド市場において「モノ消費」から「コト消費」へのシフトが進んでいることです。「コト消費」とは、商品そのものではなく、目に見えない体験(コト)を重視する消費行動を指します。旅に置き換えれば、その土地の文化や自然、食、人との交流などを通じて、その場所で過ごす時間・体験に価値を見出すことと言えるでしょう。
この変化は、実際の消費データにも表れています。直近の2026年1~3月の訪日消費額は、前年同期比2.5%増、4~6月は前年同期比0.2%増で、費目別ではどちらも宿泊費が最も高くなっています。2019年(コロナ前)以降の宿泊費の構成比は拡大傾向にあり(ここ数年の宿泊料金の上昇という要因も考えられますが)、買物代の構成比は大きく減少しています[1]。こうした費目構成の変化から、滞在時間や体験そのものに価値を見出す旅のあり方へと重心が移りつつあることがうかがえます。
さらに、トリップアドバイザーが発表した旅行者によるランキング「2026 トラベラーズチョイス ベスト・オブ・ザ・ベスト アクティビティ」では、地方の体験が高く評価されていることが分かっています。広島・宮島のツアーが世界2位、日本1位となったほか、「世界遺産白川郷と金沢発体験ツアー」もアジア4位、世界16位に選出されています。まさにその土地ならではの体験が評価されており、同社はその背景として、「体験主導型旅行へのシフト」や「ゴールデンルートを超えた地方への強い関心」などと分析しています[2]。
私自身も、訪日旅行のプランニングが、東京や大阪などの主要都市を効率よく巡るスタイルから、地方でしか得られない体験を組み込んだプランへと変わってきているように思います。もちろん、初来日の旅行者にとって定番の都市観光は依然として人気ですが、とりわけリピーター層にとっては、地方でしか味わえない暮らしの空気や、現地の人との何気ないやり取りこそが、旅の目的になってきているようです。
先日、初めて日本を訪れたカナダの友人に行きたい場所を尋ねたところ、SNSで見た茨城県の「ひたち海浜公園」に行きたいと言われました。残念ながら訪問は叶いませんでしたが、代わりの候補を探す際に「渋谷や新宿ではなく、自然景観で癒される場所に行きたい」とのこと。初めての訪日であっても、SNSを通じて主要都市以外の魅力がすでに広く知られており、目的も多様になっていることを実感しました。
では、なぜ「コト消費」であり、なぜ地方なのでしょうか。
要因はさまざまだと思いますが、例えば、モノを買うことよりも体験による精神的な満足感を好む傾向、都市部の混雑や慌ただしさから離れたいというニーズが挙げられます。また、有名観光地の情報はSNSなどを通じて「よく見る場所」である一方で、「まだ知らない日本」や「自分だけの発見」を求める傾向も強まっているのでしょう。日本各地には、その期待に応える魅力や体験が、数多く眠っています。

ただし、地域や事業者の視点だけで発信すると、内容や伝え方によっては、今の旅行者が求める「コト消費」のニーズとうまく噛み合わないことがあります。例えば、地域では「ぜひ訪れてほしい観光スポット」と考えられている場所でも、外国人旅行者にとっては、地元の人が通う老舗のお店や、何気ない街並みの方が魅力的に映ることがあります。旅行者自身が何に価値を感じるのかという視点があって初めて、地域の魅力が「価値ある体験」として伝わります。
「コト消費」の時代に求められるのは、新たな観光資源を生み出すことだけではなく、すでに地域にある魅力を旅行者の視点で再発見し、伝わる形で発信していくことだと思います。これまで観光プロモーションをご支援する中で、弊社では多国籍のクリエイティブスタッフが旅行者の視点で訴求ポイントを見直し、その土地ならではの体験価値がより伝わる発信をご提案してきました。今後もそうした視点を活かして、旅行者と地域をつなぐお手伝いを続けてまいります。
資料
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(2026年1~3月期・4~6月期調査結果、および2019年以降の費目別構成比を参照)
資料
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