「日本の田舎における、富裕層向けインバウンドツーリズムの未来を考える」

では、そんな富裕層は実際、観光市場においてどのような重要性を持つのでしょうか？同団体による、5大インバウンド市場（米・英・独・仏・濠）におけるそれぞれの消費動向を算出した平成29年のデータを見てみると、これら5ヶ国が世界に創出する全海外旅行客数の340百万人のうち、富裕旅行客が占める数はそのうちのたった1%の3.4百万人です。

しかし、彼らが実際に旅行中に消費した額に注目してみると、なんと全体の13.1%にまで及びます。市場全体で富裕層数が占める割合はかなり少ない一方で、彼らが旅行先にもたらす経済的恩恵はかなり大きい事がわかります。

次に、そんな世界規模で重要な位置にある富裕層の、最新の行動傾向に触れていきましょう。いま、従来の富裕層向け国際観光業に新たな傾向が現れています。最新のラグジュアリー・トラベラーについての情報を発信する濠メディア、「luxurytravelmag.com.au」によると、従来の上流階級からのみなる富裕旅行客に加え、20代～30代のミレニアル世代からなる新たなタイプの富裕顧客層が急速に拡大しています。

理由の一つとして、安価な旅行パッケージの大衆化により、これまでに比べ多くの階層の人が様々なクラスのホテルや体験を「選べる」ようになった事が挙げられます。以前は、一部の富と地位のある者にしかアクセスが許されず、排他的だったこの市場に、変化が起こっているのです。

最後に、そんな急成長を遂げているミレニアル世代が求めるものに目を向けてみましょう。彼らは旅行にインスピレーションを求め、事前のリサーチにしっかり時間を取り、予約にインターネットやソーシャルメディアを利用する最初の世代です。こうした背景から、一生に一度の「カスタマイズされた体験」のためにはどんな費用も惜しまない、という行動傾向が生まれます。

毎年、世界50カ国の高級旅行代理店を対象に、富裕商品の消費傾向について調査を行うVirtuoso社のCEO、マチュー・アップチャーチ氏も、「大きな支出をするなら、物理的価値のある商品よりも『体験』を優先させる初の世代。これは、革命的な変化である」とコメントしています。

地域を「守り、長期的に育てる」のが富裕層向けツーリズム

冒頭で触れた、株式会社Zen Resorts代表・岡部統行氏は、田舎での富裕層観光商品に可能性を見出した理由の一つとして、こうした富裕層の貪欲な「好奇心」に触れています。

未知の世界である日本の田舎への訪問を通じ、自らの視野を広げる。地元密着型のパッケージによる「体験」を、第一の優先事項にするーそれこそが、インバウンド富裕層がラグジュアリーパッケージを購入する背景であると言えるでしょう。

また、ラグジュアリーツーリズムは、こうした富裕層の注目を引くだけでなく、地域の特性を保護しつつ、経済的発展につなげる事も可能にします。富裕層が地元にもたらす利益により、長期目線での地方再生が期待できるからです。株式会社島津興業の海外営業部長で、2005年から鹿児島県の魅力を国内外に発信するアレックス・ブラッドショー氏も、このように「地域を守り、育てる」ことを軸にした将来性のあるツーリズムの必要性を強調します。

マスツーリズムのように安価を追求するのではなく、「お客様は何を発見できるか？」という本質的な問いを投げかけることが、地域社会を真にサポートする観光に繋がるのではないでしょうか。

<参照記事>